記憶というものが錆びることがあるのだろうか。
松岡の作品は自身の海の記憶をモチーフにし、記憶の質感を錆という表現で新しさと古さを共存させる。
記憶というものは、何に侵食され、ダメージを負い、錆びていくのか。この現代社会において、常に入ってくる情報の波に新しいものを覚えていかねばならない。
私達の記憶は、日々、更新し、覚えておかねばならないことと忘れるものの選択の毎日だ。
便利さの裏で日本の原風景が消え去ろうとする。私の中の原風景の記憶も朽ちて、今にも崩れ去ろうとしている。
松岡の作品に刻まれた切り傷や、掠れ、色の無い海、角張った構図の船などを見て感じるのは、記憶というものの叫び声だ。
松岡はその声にじっと耳を傾け、幼き頃にみた海のスケールの記憶を私達へ共有させてくれる。錆の表現は作家自身の忘れていくことへの抵抗なのだ。
映像作家 浅沼直也
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